「 3人だから、たどり着けた場所」2021年グランプリ受賞 栗川 詩加さん / 岩永 菖さん / 木村 真琴さん(ともに崇城大学)

小学生が審査員を務める米百俵デジタルコンテスト。
2021年度のグランプリに選ばれたのは
長岡から遠く離れた九州・熊本の地で
デザインとブランディングを学ぶ3人組だった。
普段から「週5で会う」というほど仲の良い3人が
コンテストを通じて発見した視点、獲得した力とは。

性格も得意分野も違うからこそ。

トークロボット「Ohanashi」で米100DC2021グランプリを受賞した3人は、いずれも熊本市にある崇城大学芸術学部デザイン学科の4年生。7月初旬、インタビューのため訪れたキャンパスでは、蝉の声と濃い緑が夏の訪れを告げていた。出迎えてくれたのは、メンバーの岩永さんと木村さん、そして3人にコンテストの挑戦を勧めたゼミの指導教員、奥田直辰先生。リーダーの栗川さんは、残念ながら体調不良により欠席で、電話とメールを駆使しての取材となった。「今日は詩ちゃん(栗川さん)がいなくて、本当に残念」と顔を見合わせる2人。「はやく復活して戻ってきてよ〜」と笑いかける電話越しの会話は、良い意味で遠慮を感じさせず、まるで姉妹か幼馴染のように屈託がない。

木村
私は宮崎の田舎で生まれ育ったので、未だに熊本の市街地を見ては「都会だなぁ」ってびっくりしています。就職も、これ以上の街には出られないって思ってるんです。でも、岩永さんは就職して都会で生活するのが楽しみなんですって。真逆ですよね(笑) 性格も、得意なことも、まったく違います。私は絵を描くのが好きで、岩永さんは企画が得意。それをまとめて1本の線につなげてくれるのが栗川さん。自分たちで言うのも変ですけど、ものすごく相性が良いと思います。

岩永
木村さんと私が好き勝手に喋って、いつも栗川さんが聞き役。うんうんって聞いて、的確にまとめてくれます。彼女が、私と岩永さんにとっての「Ohanashi」みたいな感じなのかも。

そのとおりだね、と頷き笑みをこぼす2人。同じ学科に通い、同じゼミに所属する3人は「学校とプライベートを合わせたら、週5で会ってます」というから、距離感の近さも頷ける。芸術学部デザイン学科は、1年生でデザインや芸術を総合的に学び、2年生からは、グラフィックデザイン・プロダクトデザイン・マンガ表現の3コースから選択し、それぞれの分野を深める。3人はいずれもグラフィックデザインコース。現役のグラフィックデザイナーとしても活躍する奥田先生のもと、暮らしとデザインの関わり方やブランディングの考え方を学んでいる。一見すると、テクノロジーを使ったアプリ、IoTデバイスを募集する米100DCとは遠く思えるが…。

奥田
最初は学生たちにも「IoTなんてわからないですよ」と怪訝な顔をされましたが(笑) 米100DCはプロダクトの実機ではなく、アイデアを募集するコンテストだったので取り組みやすいと考えました。ただ、詳しく調べてみると、尖ったアイデアにプレゼン資料、動画編集の技術も必要で、挑戦のレベルは高め。そこで、やる気と実力をぐんぐん伸ばしていた3人に声をかけてみたんです。

木村
学外のコンテストは、1〜2年生の頃は気後れしてしまって、ちょっと遠い存在でした。「頑張ってる人もいるよね」みたいな感じ。でも、奥田先生のゼミは常に情報が豊富にあって「チャレンジしてみない?」と応援してもらえるので…。

岩永
挑戦する敷居が下がったんですよね。3人それぞれが、自治体主催のデザインコンペや企業のアイデアアワードなどに応募してきました。栗川さんは、日本禁煙学会の禁煙CMコンテストで3位に入賞したこともあるんです。

誇らしげにチームメイトの成果を語る笑顔が眩しい。かくして米100DCへの応募を決めた3人、まずは「自分たちがほしいもの」を次々と思い浮かべたそう。机の上にメモ用紙を広げ、思い浮かんだ単語や機能を書き出す。見た夢を記録できるマシン、気に入ったメイクを記憶して再現してくれるマスク…。結果として100近いアイデアが浮かんだものの、方向性はなかなか定まらなかったという。

岩永
3人とも発想が自由すぎて迷子になっちゃいましたね。そんなとき、米100DCの応募サイトに小学生のアンケートが載っていたなと思い出して、3人で「基本に戻ろう」とじっくり読んでみることにしました。そこで、大事なことに気づいたんです。

木村
低学年の子どもたちが望むものって、いわゆるドラえもんのひみつ道具のような、夢のある楽しいものが多いんです。でも、高学年になるにつれて、どんどん現実的な内容が増えていくんですよね。忙しい両親に話を聞いてほしい、誰かに褒めてもらいたい、友達と仲直りしたい、言いたいことが口に出せない…。

岩永
大げさかもしれないですけど、子どもを取り巻く問題の一端が見えた気がしました。子どもたちは、大人が思うよりずっと気を使って生きているし、大人と同じように、もしかしたら大人よりも人間関係に悩んでいるのかも、と思って。そこから「友達みたいな誰かと、気軽におしゃべりできたらいいよね。子どもたちの話を聞いてあげられるアイテムにしたいね」と企画の軸が定まっていきました。

木村
おしゃべりしながら、さりげなくコミュニケーションの練習ができたら良いな。子どもたちの心を癒やしながら、毎日を少しでも生きやすくサポートできるツールになれば、と思ったんです。そこで、既に存在する音声サービスとの差別化もポイントにしました。機械っぽさ、冷たい印象を極力なくして、友達に話しかけるような見た目やレスポンスにしようと。「話す」という行為と、ほっこりやさしいお花のフォルムが重なったとき「Ohanashi」という名前が浮かんできました。

チームで動く難しさと喜び

子どもたちが本当に望んでいるものを作ろう、と決めてから「Ohanashi」のアイデアが生まれるまでは、一気に企画を練り上げていったと振り返る3人。チームで取り組む難しさや、個人での参加と異なる苦労はなかったのだろうか。

岩永
今回チームを組んだことに関するデメリットはゼロ、良かったことしかないです。普段から精神的にも物理的にも近い3人だったので、躊躇なく意見を言い合えました。それぞれ得意分野が違うから「ここは任せる!」「OK!」と、思い切った役割分担もできたと思います。これまで1人でコンペに挑戦したこともありましたが、1人ではこんな風に頑張れなかったです。

木村
私は、自分の得意なイラストでチームの役に立てることが嬉しかったですね。プロジェクトがどんどん動いていく、前に進んでいくという感覚も爽快でした。チームでひとつのものを作り上げる喜びを、米100DCを通じて初めて感じられたんです。

岩永
普段の授業でも、チーム運営を学ぶことはありました。1〜3年生が縦割りで取り組むプロジェクトもありますが、そちらは思うように進められず、ストレスを感じることも多くて。チームで動く難しさを知っていたからこそ、この3人で応募できたこと、歯車がうまく噛み合った嬉しさを感じられたのだと思います。

指導にあたる奥田先生から見ても、羨ましい関係だという3人。必要なときはズバリと意見し、お互いを尊重しながらより良いものを目指していく姿勢は、作品のブラッシュアップにも大いに生かされた。米100DCでは、一次審査の後に審査員の講評を受け、作品をブラッシュアップする機会が与えられるのだ。

岩永
ブラッシュアップできるコンテストは初めてだったので驚きましたし、すごく学びになりました。私たちが気づかされたのは、機能を盛り込みすぎていたということ。応募当初は、色んな情報をスキャンしてリマンドする機能もつけていたんですけど、審査員の先生から「スキャンするんじゃなくて、それもお話しすればいいんじゃない?」とアドバイスをいただいて。便利な音声案内サービスは既にたくさんあるんだから「Ohanashi」はおしゃべりすること、コミュニケーションに特化しようと振り切れたんです。

木村
機能を盛り盛りにした結果、思いついた当初の可愛さが消えてしまった気がしていたので、アドバイスを聞いて「やっぱりね」と思いました(笑)あとは最後の詰めとして、資料作成担当の栗川さんが、小学生の心に届けるための工夫をめちゃくちゃ頑張りました! 動画には読み仮名をつけて、ナレーションのスピードも何パターンも試して…。周りの小学生にアドバイスをもらいながら、最後まで根気強くプレゼン資料を仕上げてくれました。

努力の甲斐あって、徹底的に小学生のニーズを追求したアイデア「Ohanashi」は見事グランプリを受賞する。オンラインの受賞式では他作品のレベルの高さに驚くとともに、その発想力に興奮しっぱなしだったそう。受賞は「間違いかと思った」というほど驚いた3人だったが、「Ohanashi」は、子どもたちからの支持が圧倒的だった。

岩永
「小学生に寄り添いたい」と思って作ったので、もちろん素直に嬉しい気持ちもあります。きちんと狙った層に届けられた、とホッとしました。でも、同時に切ない気持ちもあります。これだけたくさんの子どもが、ただ話を聞いてくれる、おしゃべりしてくれる相手を求めているんだなって。

木村
それって、私たちのような大人が、子どもたちを寂しくさせてしまっているということですよね。身近にいる小さい子のこと、もっと見ていてあげたいなと思いました。

審査員の小学生とは、一回りほどしか歳が離れていない3人。コンテストへの挑戦を通じて、大人としての気づきや責任感を自然と身に付けていることに驚く。とはいえ「卒業研究に活かせたらいいなぁ」「ポートフォリオに堂々と載せられる実績が残せて嬉しいよね」とはしゃぐ横顔は、初々しく希望いっぱいだ。米100DCにチャレンジして変わったことは?と聞くと、またしても顔を見合わせ、今度は声も揃えて息の合った答えを聞かせてくれた。

木村 岩永
せーの…! チームで取り組む喜び、楽しさを感じられたことです!

岩永
この経験は、きっと将来に生かせる、生かしたいと思っています。栗川さん、木村さんと3人で挑戦できて、グランプリという結果を残せて、本当に嬉しかったです。長岡のことは米100DCに参加するまで知らなかったのですが、今はとても興味があって。授賞式もオンラインだったので “ものづくりの街” に、いつか行けたらいいな。

木村
グランプリという結果には、1人では絶対にたどり着けなかったと思います。3人で集まってはユーザーである子どもたちのことを考えて、考えて、考え抜いて…。最終的に求められているものを提供できた、評価してもらえたという経験が、自信になりました。

充実した2人の笑顔を眺め、教員冥利に尽きるといった風情の奥田先生は現在、「Ohanashi」の今後の展開を考えているのだそう。

奥田
地道に情報収集をしたり、デジタルデバイスに詳しい人に相談して、実用化の可能性を探っています。実現までの道のりは遠いですが、いつか完成させたいですね。彼女たちのアイデアが、どこかの小学生の寂しい心に寄り添うことができたら素敵でしょう?

最後にリーダーの栗川さんから、今年の米100DC応募者へのメッセージを寄せてもらった。

米100DCは自由な発想ができ、楽しく制作を進めることができるデザインコンペです。1回提出して終わりではなく、一次審査の後、審査員の方からのアドバイスがあり、一次審査と二次審査の間にブラッシュアップの期間があるので、さらに良い作品を作ることが可能です。授賞式の際に初めて私たち以外の作品を見て「そんな発想があったか」と気づかされたことを今でも覚えています。自分のアイデアを大人だけでなく、幅広い世代に評価していただく機会なので、ぜひ参加してみてください!

コンテストを飛び越えて「Ohanashi」が子どもたちの手元に届く。それは、彼女たち自身も考えていなかった未来だ。3人の気づきが、願いが、子どもたちの日々をほんの少し明るく照らしてくれる日は、そう遠いものでもないのかもしれない。

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