長岡市は、市政のあらゆる分野に先端技術や新たな発想を取り入れ、人材育成と未来への投資を行う「新しい米百俵」の実現に向けて取り組んでいます。この取り組みの一環として、全国の創造性ある若者を応援するためにはじまった米百俵デジタルコンテスト(米100DC)では、長岡市内の小学生が、デザイン思考を体験したり、グランプリ作品を選んだりする活動を行っています。2021年度に引き続き、2022年度も市内3つの小学校にオリジナル教材を提供し、「米100DC特別授業」を実施しました。
インタビューの課題を通して「共感」の大切さを知る
特別授業では、道徳の時間に「デザイン思考」を用いて「ひみつ道具のアイデア」を考えます。「デザイン思考」とは、使う人を中心に道具・サービスを作る手法です。自分の作りたいものを作るのではなく、使う人の立場になって、気持ちを考えることで、喜んでもらえる道具・サービスを作ります。それによって価値あるものを生み出すことができるという考え方です。
川崎小学校6年生の授業では、1人1台ずつタブレット(Chromebook)を使って行われました。昨年度の米100DC受賞作品の動画を閲覧し、「子どもたちの遊び、学び、暮らしを楽しくするアイデア」を評価するコンテストの趣旨を学びながら、面白いと思った作品について話し合うところから授業はスタート。人を喜ばせる道具やサービスを作ることについてのイメージを深めていきました。
次に、「デザイン思考」で重要な「インタビュー」の体験に取り組みました。テーマは「遊び」。インタビューの最後には、相手の遊びがもっと楽しくなるひみつ道具のアイデアを出します。2人1組になってじゃんけんをし、勝った方が聞き手になって、相手のふだんの遊びや悩みについて聞いていきます。インタビューがスタートすると教室全体がわっとにぎやかになり、活発な対話がはじまりました。
いいインタビューを行うためには、相手の話をよく聞くこと、相手の発言を否定しないことが大切です。これは友達や家族との日常のコミュニケーションでも大事なことですが、頭で理解していても実践することがなかなか難しいもの。この特別授業では、相手にインタビューをした結果から、さらに一歩進んで「相手の遊びがもっと楽しくなるひみつ道具のアイデア」を考えることがゴールになっているため、ゴールを達成するために一生懸命に相手の話に耳を傾け、理解し、相手の気持ちに共感しようとする子どもたちの様子が見られました。
さらに自分の考えたアイデアを相手に見せて「どう?面白い?」と聞いたり、相手の意見を取り入れてもっと良くする方法を考えようと取り組む児童も多くいました。担任の佐々木颯先生は、「普段の授業の話し合いとは違う姿だ」と話します。
今日の授業では、子どもたちが普段の授業では見られないほどの主体性を持って相手の話を聞いたり、相手に気持ちを伝えたりすることができました。相手の立場に立って考えることが大切だというのは言葉にするのは簡単ですが、実際に行動してみることで、子どもたち自身の深い理解につながる体験になったと感じます。
子どもたちからも「相手のことを考えて人の役に立つアイデアを考えるのは面白かった」「デザイン思考がどういうものか分かった」という声が聞かれ、最終的には57のひみつ道具のアイデアが生まれました。
デザイン思考で広がる学び
特別授業に参加することは学校教育としてどんな効果があるのでしょうか。川崎小学校の伊藤純子校長先生に話を聞きました。
授業に参加し、学校だけではできない授業が実現できたと感じました。米100DCのオリジナル教材は授業構成もしっかりしており、児童も先生もいきいきと活動することができましたね。
正解がないこと、多様性があることを学ぶことは、未来につながる勉強になります。デザイン思考という考え方を通して、相手を深く理解すること、相手を受け入れること、自分の思いもきちんと伝えることなど、子どもたちにとって必要な「人としての学び」が体験できたのではないでしょうか。教える側の思考力向上にもつながり、他の授業にも活用できる考え方だと感じました。
今回のオリジナル教材を開発し、特別授業を監修した板垣順平先生(長岡造形大学助教)にも話を聞きました。
子どもたちは、インタビューでかなり積極的に話を聞いていました。「どうして?」「なんでそう考えるの?」と、掘り下げて質問していたことがすごく良かったです。アイデアを考える時は、「こういうのどう?」と相手の子に提案し、コミュニケーションできていたことも感心しました。
相手への共感だけで終わらず、具体的なアイデアを考えるゴールがあったことで、さらに良い体験になったのではないでしょうか。子どもたちの内面に他者に対しての興味関心が育まれていくことが、未来のより良い社会につながると思います。
次世代を担う人材育成に貢献するために、米100DCでは今後も様々な活動を行っていきます。
小学校への特別授業は、次回、2023年1月のグランプリ投票時にも行う予定です。
- ※米100DC特別授業参加校:
- 長岡市立川崎小学校(5年生・6年生)、長岡市立中之島中央小学校(5年生)、長岡市立脇野町小学校(5年生) 参加児童数223名
参考資料(小学生の声)
小学校授業インタビュー回答一覧(2022)
こんなひみつ道具があったらいいな アイデア一覧(2022)
小学校授業インタビュー回答一覧(2021)
こんなひみつ道具があったらいいな アイデア一覧(2021)
こんなひみつ道具があったらいいな アイデア一覧(2020)
取材・文:宮田 里枝子(デザイントーク)
撮影:長岡市、デザイントーク
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